将棋の封じ手とは?書き方・2通の保管・翌朝の開封手順と公平性を徹底解説
将棋の「封じ手(ふうじて)」とは、2日制の対局で1日目を終了するとき、翌日に最初に指す棋士が次の一手を専用の用紙に記入し、封筒に入れて厳重に封印する仕組みです。翌朝、立会人が封筒を開けるまで、対局相手にもその内容は分かりません。
名人戦・竜王戦・王位戦・王将戦などの主要タイトル戦で採用されており、対局を一晩中考え続けられるような情報面の不公平を防ぐ役割を担っています。実際の手順には、棋士による用紙の記入、同じ内容の2通の作成、対局者双方の署名、立会人と対局場による保管、翌朝の開封という複数の段階があります。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 封じ手の意味:翌日に指す一手を事前に用紙へ記入し、封印して保管する制度。
- 実施の仕組み:手番の棋士が2通を作成し、立会人と対局場がそれぞれ保管する。
- 最大の目的:一晩の休憩によって生じる両対局者の思考時間や情報面の不公平を防ぐこと。
【まず結論】将棋の封じ手とは?指し掛けとの違いも解説
封じ手は、長時間にわたる将棋の対局を翌日へ持ち越す際に、次の一手を秘密にしたまま確定させるための制度です。
通常の将棋では、対局者が交互に盤上へ駒を動かして勝負を進めます。しかし、2日制のタイトル戦では、1日目の終了時に対局を中断し、翌朝から続きを指すことがあります。
このとき、次に指す棋士が手を盤上に動かしてしまうと、相手はその局面を見ながら一晩考えられます。反対に、手を指さずに終了すると、次の手番の棋士だけが自分の指し手を一晩考え続けられる可能性があります。
そこで、次の一手を紙に書いて封印することで、どちらの棋士にも一方的な情報上の優位が生まれないようにします。
封じ手と指し掛けは何が違う?
この2つは密接に関係していますが、意味は異なります。
- 指し掛け:勝負が決着していない状態で、対局を一時中断すること。
- 封じ手:対局再開後に最初に指す手を、用紙に記入して封印すること。
- 指し継ぎ:中断していた対局を、後日または翌日に続けて指すこと。
つまり、指し掛けが対局の中断を意味するのに対し、封じ手は再開時の指し手を確定しておくための手続きです。
封じ手を書いたからといって、その時点で勝敗が決まるわけではありません。対局は中断されているだけで、翌日に同じ局面から再開されます。

【実施時刻と担当者】封じ手はいつ行い、誰が書くのか
封じ手は、2日制対局の1日目に設定された終了時刻に行います。多くのタイトル戦では午後6時が基準ですが、棋戦によって時刻が異なります。
封じ手を行うのは原則として午後6時
竜王戦・王位戦・王将戦では、一般的に午後6時が封じ手の基準時刻です。一方、名人戦では午後6時30分が設定されています。
ここで注意したいのが、基準時刻になった瞬間に必ず封筒へ入れなければならないわけではないことです。
封じ手を行う棋士は、基準時刻を迎えても、自分の残り持ち時間を使って考え続けることができます。指し手が決まった段階で封じるため、実際の封印が午後6時を過ぎるケースもあります。
将棋棋士の田丸昇氏は、JBpressの記事で、封じ手時刻を過ぎても手番の棋士は持ち時間を使って考えられ、局面によっては午後8時を過ぎた事例もあったと解説しています。
封じ手用紙を書くのは手番の棋士
封じ手を記入するのは、対局を中断する時点で次に指す権利を持っている棋士です。
先手・後手のどちらが担当するかは、あらかじめ交互に決められているわけではありません。その日の終了予定時刻に手番が回ってきた棋士が封じ手を行います。
記録係は現在の盤面を用紙に記録する役割を担いますが、次の一手を決めて記入するのは棋士本人です。
封じ手に関係する3者の役割
- 封じ手を行う棋士:翌日の指し手を決め、専用用紙に記入する。
- 対局相手:封筒の封印を確認し、所定の署名を行う。
- 立会人:手続きが適正に行われることを確認し、封じ手を受け取って保管・開封する。
このように、封じ手は棋士本人だけで完結するものではありません。対局相手と立会人が関わることで、秘密を守りながら手続きを確実に進めています。
【実物で理解】封じ手用紙の書き方と記入ルール
封じ手用紙には、一般的な棋譜のように「▲7六歩」「△3四歩」といった符号だけを書くわけではありません。盤面図を使って、どの駒をどこへ動かすのかを視覚的に示します。
封じ手用紙の基本的な書き方
実際の王将戦中継ブログが2025年3月9日に紹介した第74期王将戦七番勝負第5局の封じ手用紙によると、基本的な記入方法は次のとおりです。
- 現在の局面を記録する:記録係が専用用紙の盤面図に、その時点の駒の配置を書き込む。
- 動かす駒を示す:封じ手を行う棋士が、動かす駒を赤ペンで丸く囲む。
- 移動先を示す:矢印を使って駒の移動先を明確にする。
- 成・不成を記入する:駒を成ることができる場合は、欄外に成・不成を記す。
- 2通を作成する:同じ指し手を記した用紙を2通用意し、それぞれ封筒に入れる。
持ち駒を打つ場合はどう書く?
将棋では、相手から取った駒を自分の駒として盤上に打つことができます。
そのため、封じ手が持ち駒を使う手の場合は、盤上の駒を丸で囲むのではなく、持ち駒の該当する駒に印を付けて、打つ場所を矢印で示します。
また、駒を成れる局面では、成るか成らないかも重要な情報です。単に移動先だけを書けばよいわけではありません。
封じ手用紙はなぜ2通必要なのか
封じ手は、通常、同じ内容のものを2通作成します。それぞれを別の封筒に入れ、立会人と対局場が分担して保管します。
1通を立会人側、もう1通を対局場側で管理することで、1か所だけに依存しない保管体制を構築しています。
封筒には棋戦名、対局者名、開催日、対局場などが記され、封印の確認には両対局者の署名も用いられます。
なお、2020年の王位戦では、通常の2通に加えて、チャリティーオークション用の封じ手を追加作成した事例もありました。これは通常の保管用2通とは異なる特別な取り組みです。

【翌朝の開封手順】封じ手はどのように公開される?
1日目の封じ手が終わると、封筒は翌日の対局再開まで保管されます。そして2日目の朝、立会人が開封することで、秘密にされていた指し手が明らかになります。
封じ手を開封するまでの5つの流れ
- 対局再開の準備:両対局者が対局室に入り、前日の指し手を盤上に再現する。
- 封筒を取り出す:立会人が保管していた封じ手の封筒を対局室に持ち込む。
- 封印を確認して開封:封筒を開け、封じ手用紙を取り出す。
- 指し手を読み上げる:立会人が記載された指し手を確認し、両対局者に示す。
- 封じた棋士が着手する:用紙に記された一手を盤上で再現し、対局を続行する。
この手順によって、1日目の最終局面と翌日の最初の指し手が正確につながります。
立会人は開封の際に何をする?
立会人は単に封筒を開けるだけではありません。封じ手の保管状況や封印を確認し、記載された指し手を正しく読み上げ、対局が適切に再開されるよう進行を管理します。
日本将棋連盟の対局規則でも、立会人は規則の遵守を確認し、対局の進行を注視して良好な対局環境を維持する役割を担うと定められています。対局上のトラブルに対する裁定・処置の権限もあります。
2026年の名人戦で注目された開封シーン
2026年4月26日に行われた第84期名人戦七番勝負第2局では、封じ手の開封方法が話題になりました。
藤井聡太名人が前日に封じた37手目の封筒を、立会人の行方尚史九段が開封する際、ハサミを少し入れた後に手で裂くという動作を披露しました。
ABEMA TIMESの報道によると、封筒の切り方そのものには明確な統一ルールがなく、立会人によって開封の仕方にも違いがあります。
封じ手の本質は、封印された指し手の秘密を守り、翌朝に正確に公開することです。開封時の細かな所作は、その周辺にある儀式的な要素といえます。
【タイトル戦を比較】名人戦・竜王戦・王位戦・王将戦の封じ手
封じ手が特に注目されるのは、将棋界の主要タイトル戦のうち、2日制で行われる七番勝負です。
名人戦・竜王戦・王位戦・王将戦は、それぞれ持ち時間や運営上の設定に違いがありますが、1日目の終了時に次の一手を封じ、翌日に指し継ぐという基本的な仕組みは共通しています。
| 棋戦 | 七番勝負の形式・持ち時間 | 封じ手時刻の目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 名人戦 | 2日制・各9時間 | 18時30分 | 他の主要タイトル戦と封じ手時刻が異なる |
| 竜王戦 | 2日制・各8時間 | 18時を基本 | 読売新聞主催の最高位タイトル戦 |
| 王位戦 | 2日制・各8時間 | 18時 | 新聞三社連合主催の七番勝負 |
| 王将戦 | 2日制・各8時間 | 18時 | 長時間の持ち時間を使う七番勝負 |
※時刻は2026年時点の公開案内などを基にした目安です。実際の対局では、各棋戦・各局の公式案内が優先されます。
名人戦の封じ手
名人戦七番勝負は、各9時間の持ち時間を設定した2日制の対局です。
名人戦棋譜速報の公式FAQでは、七番勝負の開始時刻は1日目・2日目とも午前9時、封じ手時刻は午後6時30分と案内されています。
午後6時に封じ手を行う棋戦が多いなか、30分遅い設定になっている点が特徴です。名人戦を観戦する際は、他の棋戦の時間設定と混同しないようにしましょう。
竜王戦の封じ手
竜王戦七番勝負も2日制で、持ち時間は各8時間です。
日本将棋連盟の棋戦情報では、竜王戦の七番勝負が例年10月から12月に行われること、タイトル戦の持ち時間が各8時間であることが案内されています。
1日目の終盤では、封じ手をめぐって対局者がどこまで考えるのかも観戦上のポイントになります。次の一手を決めるまでの時間も勝負の一部です。
王位戦の封じ手
王位戦では、2026年に第67期七番勝負が行われました。藤井聡太王位と伊藤匠二冠が対戦し、各8時間の持ち時間で勝負を繰り広げています。
2026年8月に開催された第5局の公式中継ブログでは、1日目の封じ手時刻を午後6時と案内していました。
また、2020年の第61期王位戦では、藤井聡太七段が初めて封じ手を経験したことでも話題になりました。王位戦の中継ブログには、記入用紙や2通の封筒、保管の様子など、実際の手続きが詳しく記録されています。
王将戦の封じ手
王将戦七番勝負も各8時間の持ち時間を設定した2日制です。
2026年の第75期王将戦では、藤井聡太王将と永瀬拓矢九段が対戦しました。3勝3敗で迎えた第7局は3月25日・26日に行われ、公式中継ブログでは午後6時の封じ手と、翌日に向けた手続きが紹介されています。
このように、王将戦では実際の封じ手の記入や署名、封筒の受け渡しまで、中継を通じて観戦できます。
ほかのタイトル戦でも封じ手はある?
将棋界のタイトル戦がすべて封じ手を採用しているわけではありません。
2026年時点では、王座戦・棋王戦・棋聖戦・叡王戦は基本的に1日制で行われています。そのため、2日制の対局で生じる翌日の最初の一手を秘密にする必要がなく、通常の封じ手はありません。
封じ手を理解する際は、タイトルの格だけで判断するのではなく、対局が1日制なのか2日制なのかを確認することがポイントです。

【なぜ必要なのか】封じ手の公平性と1937年から続く歴史
封じ手が必要とされる最大の理由は、持ち時間と情報の公平性を保つことです。単に翌日の指し手を記録するだけではなく、対局の中断によって生まれる思考時間の偏りを抑える仕組みになっています。
封じ手がなければ何が不公平になる?
例えば、1日目の終了時に後手の手番だったとします。
後手が盤上に駒を動かしてから対局を終えた場合、先手はその手を見てから翌朝まで考えることができます。後手は、先手がどう応じるかを知らないまま翌日を迎えます。
一方、後手が一手も指さずに対局を中断すると、後手だけが翌朝まで次の手を考え続けられる状況になります。
このように、通常の形で中断すると、どちらか一方に考える機会や情報面の優位が生じかねません。
封じ手なら、後手は自分の指し手を決めて秘密のまま固定し、先手はその手を知らない状態で翌朝を迎えます。これにより、相手の指し手を一晩分析するという一方的な状況を避けられます。
持ち時間の公平性はどのように守られる?
封じ手の重要なポイントは、対局者が使える持ち時間そのものを公平に扱うことです。
封じ手を行う棋士は、設定時刻を過ぎても自分の持ち時間が残っていれば考え続けられます。封じ手を記入して手続きが完了すると、対局は翌日まで中断されます。
翌朝は前日の続きから再開し、残っている持ち時間を使って対局を進めます。夜間の休止時間が対局者の持ち時間に加算されるわけではありません。
したがって、封じ手は単に時間を区切る制度ではなく、休止前後の時間管理と情報管理を組み合わせた公平性のための仕組みです。
封じ手の歴史は阪田三吉と花田長太郎の対局にさかのぼる
現在の封じ手の運用につながる重要な歴史的経緯として知られているのが、1937年(昭和12年)3月22日から28日まで京都・嵯峨の天龍寺で行われた阪田三吉と花田長太郎八段の対局です。
日本将棋連盟の公式歴史資料によると、この対局では封じ手の方式が変更されました。
それ以前の南禅寺での対局では、封じ手を1日ごとに交互に行う方式が採用されていました。しかし、対局終了時刻が定まらないという問題がありました。
そこで天龍寺の対局では、終了予定時刻に手番が回ってきた棋士が封じ手を行う方式に変更されました。さらに、封じ手の封筒には対局者双方が署名する方式も取り入れられました。
日本将棋連盟の歴史資料は、この方式が現在のタイトル戦にも継承されていると説明しています。
つまり、今日の封じ手は、長時間対局の運営上の問題を解決するために整えられてきた制度でもあります。
よくある誤解と正しい理解
- 誤解1:午後6時になったら必ず封じる。
実際には設定時刻を過ぎても自分の持ち時間を使って考えられます。 - 誤解2:記録係が封じ手を書く。
記録係は盤面図を準備し、次の一手を決めて記入するのは手番の棋士です。 - 誤解3:封じ手は1通だけである。
通常は同じ内容の2通を作成し、別々に保管します。 - 誤解4:封じ手をした時点で対局は終了する。
実際には指し掛けとなるだけで、翌日に対局が再開されます。
【将棋の封じ手とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:将棋の封じ手はどちらの棋士が書くのですか?
A1:1日目の終了予定時刻に手番が回ってきた棋士が書きます。先手・後手が交互に担当する決まりではなく、その局面で次に指す権利を持つ棋士が担当します。
Q2:封じ手は必ず午後6時に行うのですか?
A2:午後6時を基準とする棋戦が多いものの、名人戦は午後6時30分です。また、基準時刻を過ぎても手番の棋士は持ち時間を使って考えられるため、実際の封印が遅れることもあります。
Q3:封じ手用紙はなぜ2通作るのですか?
A3:通常は同じ内容の用紙を2通作り、別々の封筒に入れて保管します。1通は立会人、もう1通は対局場が管理することで、保管を複数の場所に分けています。
Q4:封じ手は翌朝、誰が開けるのですか?
A4:立会人が開封します。前日の局面を再現した後、封筒を開けて指し手を読み上げ、封じた棋士がその手を盤上で指して対局を再開します。
Q5:封じ手は相手の棋士に知られないのですか?
A5:封印された状態では相手にも内容は分かりません。翌朝、立会人が開封するまで指し手は秘密に保たれます。
Q6:封じ手は将棋のすべての公式戦で行われますか?
A6:いいえ。主に2日制のタイトル戦などで採用されます。1日で終了する対局では、翌日に持ち越す最初の一手を秘密にする必要がないため、通常は行われません。
まとめ:将棋の封じ手は公平な勝負を支える重要な制度
将棋の封じ手とは、2日制の対局で翌日に指す一手を事前に記入し、封印して保管する仕組みです。
手番の棋士が専用用紙に指し手を書き、同じ内容の2通を作成。対局者双方の署名を経て、立会人と対局場がそれぞれ保管します。翌朝は立会人が開封し、記載された一手を盤上に再現して対局を再開します。
名人戦では午後6時30分、竜王戦・王位戦・王将戦では午後6時を基準とする運用が一般的ですが、実際の時刻や進行は各棋戦の案内を確認することが大切です。
【プロの結論】封じ手を見るときに注目したい3つのポイント
封じ手を観戦するなら、次の3点に注目すると、対局の面白さがさらに深まります。
- 封じ手をした棋士:どちらが翌日の最初の一手を担当するのか。
- 封じた時刻と消費時間:基準時刻を過ぎてどれだけ考えたのか、残り時間はどれくらいか。
- 翌朝に公開される一手:封じ手が予想どおりだったのか、それとも意外な一手だったのか。
特に重要なのは、封じ手を単なる将棋の伝統的な儀式として見ないことです。そこには、長時間の勝負を公平に続けるための合理的な工夫が詰まっています。
封じ手の意味や手順を知っておけば、名人戦・竜王戦・王位戦・王将戦の中継で行われる封印や開封の場面も、単なる形式ではなく、勝負の続きを左右する大切な局面として楽しめるはずです。
主な事実確認資料
- 日本将棋連盟「日本将棋の歴史(18)」:封じ手方式の歴史と1937年の制度変更。
- 日本将棋連盟「対局規則」:立会人・記録係の役割。
- 名人戦棋譜速報「よくある質問」:名人戦の封じ手時刻18時30分。
- 王将戦・王位戦の2026年公式中継ブログ:実際の封じ手手続きと時刻。
- JBpress・ABEMA TIMES:封じ手の公平性、保管方法、2026年の開封事例。 (出典: 将棋 封じ手 と は(Yahoo!ニュース))